論文執筆計画
2021/1/14
2020/10/4
「デザインプロセスの記録・視覚化・省察からデザインの学びを抽出する」というタイトルで、公立はこだて未来大学 メディアデザイン領域 原田研究室所属 修士1年の西山凜太郎が発表させていただきます。
私は、大学に入ってから「情報デザイン」を学び始めましたが、大学に入る前は「表現すること」に強い苦手意識があり、デザイナーは別世界の人だと思っていました。ところが大学でProcessingなどのプログラムによる表現方法に出会ったことで、自分にも表現できる方法があるのかもしれないということに気づき、情報デザインコースを選び、学び始めました。
そんな私がデザインを学んでみると、自分がこれまで思っていた「デザイン」はその一部しか見えていなかったということに気が付きました。最初は、見た目の美しさを追求することや、誰もが使いやすい物を作ること、課題解決のための新しい提案をすることがデザインだと思っていましたが、私が大学で学んできたデザインはそれだけでなく、そこにある資源を活用したものづくりの可能性を一緒に探ることであったり、目の前の人のためのものづくり、そして、生活する中でのありとあらゆることがデザインの対象であるということがわかってきました。
このように「デザイン」の解釈が自分の中で変わっていくにつれて、デザインを学ぶ立場の自分は、何を持ってデザインを学んだことになるのかよく分からなくなってきました。方法論を暗記してもデザインできるようにはならず、授業でわかった気になっていても、実践してみると全くできていないということを何度も経験してきました。
そんなもどかしい思いを抱えながらも、まずは今の自分が社会に出てどのくらいできるのかということを分からなくてはならないと思い、積極的に授業以外のデザインの現場に参加させていただいてきました。
積極的に授業以外のデザインの現場に参加させていただいていく中で、授業での学びと実践の中での学びの違いを感じるようになりました。こちらの表にあげたように、授業ではなかなか経験できなかったこともリアルな現場では経験できると同時に、「何をどうやるか」「どう評価するか」「何をどうやって学び取るか」ということも自分で考えていかないといけません。そのため、デザインを学ぶスキルがないと、「やりっぱなし」で終わってしまい、せっかくの学びのチャンスを逃していることが多々あるという課題を感じています。そのため、「どうやってデザインを学ぶのか?」という問題はデザインを学ぶ人にとってとても重要であると考えます。
私は、デザインの学び方のヒントを得るために、過去のデザインプロセスの資料を見返してみることにしました。私は、大学で情報デザインを学び始めてから今に至るまで、デザインプロセスで使った資料をできるだけ捨てずに保管していました。この資料を数年ぶりに見返してみると、過去の課題の意図が今なら理解できたり、忘れていたデザインに取り組む姿勢、当時の野望などを思い出すことができ、今後のデザインに生かしていこうという、次のデザインに取り組む未来の自分の行動を変える気づきが得られました。私はこれがデザインの学びにつながるのではないかと考え、デザインプロセスの記録から “デザインの学び” を抽出できることを予感しました。また、デザインプロセスの記録を残すことは、時間も労力も必要とする行為ですが、今回私が経験したように、未来の自分にとって有意義なものであったことから、デザインプロセスの記録は未来の自分への投資行為であり、一生の財産になりうると考えることができます。
しかし一方で、デザインプロセスで生まれた資料はスケッチ、画像、イラストレーターのデータ、プログラムなど、様々で保管方法もそれぞれ違うことや、対話の内容やその時の考えなどは、意識的に残さないと何も残らないという「デザインプロセスの記録方法に関する課題」とデザインプロセスの記録からどうやってデザインの学びを抽出するかという「デザインプロセスの省察方法に関する課題」が浮かび上がってきました。
そこで本研究では、デザイン学習者が自らのデザインプロセスを記録、視覚化、省察することで得られる “デザインの学び” を明らかにし、デザインプロセスを振り返ることがデザイン学習者に与える効果を考察します。この研究の成果として、デザインの学び方の具体例を呈示することで、多くのデザインを学ぶ人の参考になればと考えています。
以上のようなことから、私の卒業研究ではデザインプロセスの記録・視覚化・省察を試みました。しかし、デザインプロセスをどのような視点で省察するべきかわからなかったため、視覚化の意図が定まらず、十分な学びが抽出できませんでした。また、デザイン実践と並行して記録を行うと、記録に時間がとられ、実践がなかなか進まないという問題も浮き彫りになりました。
そこで修士研究では、
・デザインプロセスを省察する視点
・デザインプロセスの記録
・デザインプロセスの語り方
についてそれぞれ実践的に探っていきます。
私は、自分のデザインプロセスを省察する視点を探るため、まずは「自分のデザインプロセスに、何が足りていて、何が足りないか」を明らかにすることから始めることにました。この問いに「他者だったらどうしただろう」という視点で考察するため、他のデザイナーのデザイン論との比較を試みました。今回は、ブルーノ・ムナーリの著書『モノからモノが生まれる』から、「企画設計の図式」を参考に考察しました。
ムナーリの示す「企画設計の図式」と比較することで、自分のデザインは、
・ムナーリだったら考えていたこと、やっていたことを自分はできていなかった
・KJ法やブレストなどの手法を取り入れることが目的になっていて、なぜそうするのかが考えられていないこと
などが見えてきました。
今回実践した、他者のデザイン論と自分のデザインプロセスを比較することは、自分の具体的な経験を他者のプロセスに当てはめて省察することで、単なる知識ではなく、経験を通した “デザインの学び” が得られました。また、ムナーリの記述が私のデザインプロセスの省察に役立ったことから、私の記述も他者に活用してもらえる可能性があることがわかりました。
次に、デザインプロセスを記録するためのツールとして、デザインプロセス記録用のブログサイトを個人用とグループ用の2つ制作して日々の活動を記録してきました。
まず、私個人用の記録サイトでは、日々の活動内容をブログの記事として投稿し、デザインレビューや対話の内容をコメントとして残せるようにしています。日々の活動を記録していく中で、いくつかの効果を実感しています。
効果の一つ目は、やってみないとわからなかったこと、やりながら工夫したことが残せていることです。例えばレーザーカッターを使用したものづくりの記録では、
・データをつくる際のコツ
・最適な位置合わせの方法
・組み立ての手順
などが記録できました。これらの一つ一つは学びと言えるほどのことではないかもしれませんが、少なくとももう一度同じようなものを作るときには、参考になる情報を残せたので、次は、設計段階から今回分かったことを考慮できるはずです。
効果の二つ目は、言語化をしようとすることで、きちんと考えて作っていた部分と、なんとなくで作っていた部分を自覚できたという点です。写真やスケッチの記録だけでは残せなかった、その時の考えを忘れる前に残すことができるのは、あとで省察する際に重要になってくると考えられます。
次に、複数人で使うことを想定したグループ用の記録サイトも制作しました。こちらは、複数人でのデザインプロジェクトが、コロナの影響で直接会って活動できず、情報共有が十分にできていないと感じたことをきっかけに、個人用の記録サイトを応用して制作しました。
このツールを使うことで、
・他の人の進捗状況がいつでも確認できる
・資料を手元でいつでも見ることができる
・コメント機能を使う事で、メールより気軽に議論ができる
・ページごとに話題が分けられるため、過去のコメントを遡りやすい
・対話や議論の内容が残るため、途中参加者・欠席者にも対応可能
という効果がありました。
最初は活動記録の場として作りましたが、プロジェクトメンバー間で使っていくうちに、情報共有の場、そして議論の場へと発展していきました。
このように、記録のためのツールをデザインしてみて、これまでは、より良い成果物をつくることだけが目標だったのが、ものづくりの環境や道具も自分でつくることができるデザインの対象なのだということに気づくことができました。今回のWEBサイトのように、専用のコミュニケーションツールをつくることは情報技術の得意分野で、情報デザインを学ぶ自分だからこそできるデザインなのかもしれないと感じました。
次に、“デザインの学び” を他者から聞き出すためのデザインプロセスの語り方についての考察をお話しします。夏休み中に、私は函館市の縄文遺跡をPRするためのバスラッピングを制作し、夏休み明けのゼミで、私の所属するゼミメンバーには初めて報告しました。その際、作品の完成度に納得してはいたのですが、否定されるのが怖くてきちんと作品についての説明をしませんでした。もちろん、デザイナーとして参加させていただいている以上、作品には責任を持っていますし、中途半端なものづくりをしたつもりはありませんでした。それなのに、きちんと説明できなかったのは、自分は他者に伝えることにとても苦手意識を持っており、うまく伝えられないことや全て伝えた上で根本的な部分を否定されることが怖かったことが原因だったのだと思います。
私はゼミ終了後、きちんと説明しなかったせいで、具体的なアドバイスを十分に聞き出せなかったことを後悔しました。結果、「中途半端なものを世の中に出してしまったのかもしれない…」という後悔だけが残るという、非常に後ろ向きな振り返りとなってしまった。後ろ向きな振り返りは、自信を失うだけで次に繋がらず、“デザインの学び” につながらないことにここで気がつきました。
では、前向きな振り返りはどうすればいいのかということなのですが、まずは、勇気を持って自分の作品について丁寧に語り、その上で、自分にはなかった「その人ならではな視点・着眼点」を聞き出し、自分のものにするというのが、前向きな振り返りになるのではないかと考えられます。
他の人ならどうしていたのか、どんなところに着目してものづくりをしているのかを聞き出すことが、前向きな振り返りにするために必要なことであり、そこまで聞き出すために、作品とデザインプロセスを丁寧に伝えることが必要なのだと実感しました。
では、デザインプロセスをどう語れば良いのか。そこで、デザインプロセスを省察するための視点の時にも参考にしたムナーリの図式をここでも参考にして整理し直してみました。すると、自分のデザインプロセスの本質的なところが整理できてきました。これまでは、左のように1日ごとの活動記録を並べ、そこからプレゼンを作っていたせいで、時間がかかったところの話が多くなるため、作業についての話が多く、「なぜそうしたのか」という根拠や考え方などの、本来伝えるべき話が埋もれてしまうことが多くありました。そのため、結局細かく記録を残しても「前向きな振り返り」にはつながらず、“デザインの学び” を得ることができませんでした。一方、ムナーリの図式で整理すると、時間の量ではなく、活動の内容で区切れるため、説明に必要な要素が整理できてきているので、他者に自分のデザインプロセスを語る際にも、この方法は有効であることがわかりました。
ここまでの研究で、これまではただ漠然と「記録をとっておけば、そのうち役立つだろう」という考えでしたが、「何のために活動の記録をとるべきなのか」「活動の記録をとっていると、どんないいことがあるのか」ということが具体的になってきました。
今後の研究計画としては、
・デザインプロセスを省察する視点については、ムナーリ以外のデザイナーのデザイン論からも視点を見つける
・デザインプロセスの記録に関しては、デザイン実践と並行して自分なりの記録ツールをブラッシュアップしていき、記録を蓄積していく
・様々な人に自分のデザインプロセスを語り、“デザインの学び” を他者から聞き出すためのデザインプロセスの語り方・記述方法を模索していく
といったことを行っていく予定です。
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