論文執筆計画
2021/1/14
2020/7/9
公立はこだて未来大学 原田研究室所属の修士1年 西山凜太郎です。よろしくお願いいたします。
それでは、『デザインプロセスの記録・視覚化・省察からデザインの学びを抽出する〜デザイン初学者がデザイン実践をする方法とその可能性〜』というタイトルで、修士研究の計画と進捗状況を発表させていただきます。
本研究の目的は、デザイン初学者が自らのデザインプロセスを記録、視覚化、省察することで、デザイン初学者がデザイン実践研究をする方法とその可能性を実践的に探ることです。この研究によって、デザイン初学者のデザインの学び方を呈示します。
デザイン初学者である私は、積極的に課外活動やリアルな現場でのデザイン実践に参加してきました。ここにあげたものはその一部ですが、簡単にご説明したいと思います。
左の函館市電を題材としたデザインプロジェクトでは、函館の路面電車の魅力を市民や函館を訪れた人々に伝えるための試みとして、函館市内の展示スペースを借りて展覧会を開催したり、路面電車を1両貸し切ってガイドツアーを開催するなどしました。
真ん中の函館水道デザインプロジェクトでは、先ほどの函館市電のプロジェクトを見た市役所の職員から声をかけていただき、函館水道創設130周年を記念したロゴマーク、市電ラッピングをはじめとするグラフィックデザイン、またそれを利用したグッズ展開など幅広いデザイン実践が経験できました。
右の小学生向けの研究紹介展示では、未来大学のある研究室の研究内容を函館市内の小学生に向けて、体験型の展示で紹介するというデザインプロジェクトに取り組みました。
ここで、私がこれまでに行ってきた「デザイン」を整理してみると、
というデザインを行ってきたということがわかってきました。
私自身の経験から、デザインの授業と課外活動の違いをまとめたものがこちらの表になります。
授業ではデザインプロセスが基本的に教員から示され、課題に取り組んでいくことで進めていくのに対して、課外活動ではデザインプロセスも自分で構築していく必要があります。
制約面では、基本的に授業では時間、テーマ、材料などの制約のもと取り組むのに対して、課外活動では制約も自分で設ける必要がある場合があります。
成果物に対する評価では、授業は教員から成績がつけられるのに加え、同じ課題に複数の人が取り組んでいるので、他者の作品との比較も可能ですが、課外活動ではできません。
また、授業は学びが得られるように設計されている上に、シラバスに何を学んで欲しいかが明記されています。それに対し、課外活動では、実践から何を学びとるかは実践者が考える必要があり、自ら学びを得ようとしないと何も学び取れないという実感があります。
以上のように、課外活動を経験することで、授業とは違った学びのチャンスがあると感じています。しかし、課外活動は授業のように学びのための設計がされていないため、初学者にとっては、課外活動の実践から学びを抽出することは難しいという問題があります。
また、デザイン初学者が、リアルな現場でのデザイン実践を経験することで、架空の社会の一部分を取り出したデザインではなく複雑な実社会を対象とした、より実践的なデザインが経験できるというメリットがあります。しかし、課外活動と同様に、デザインの成果を判断するのが難しいという問題もあります。また、様々な分野の人との対話を通したデザインが経験できる一方で、デザイナーに対する理解を持ってもらうというスキルが必要になってきます。
よって、デザイン初学者が、授業以外やリアルな現場でのデザイン実践を行うことは、多くの学びのチャンスがあるが、そこから学びを抽出するためには省察のスキルが必要になってくると言えます。
以上のようなことを背景に、私の卒業研究では、デザインプロセスの記録・視覚化・省察を試みました。しかし、デザインプロセスをどのような視点で省察するべきかわからなかったため、視覚化の意図が定まらず、十分な学びが抽出できませんでした。また、デザイン実践と並行して記録を行うと、記録に時間がとられ、実践がなかなか進まないという問題も浮き彫りになりました。
そこで、デザインプロセスをどのような視点で省察するべきか?また、デザイン実践と並行して必要な記録をとる方法はないか?という2つの問いをたてました。
本研究では、これらの問いに対して、2つのアプローチから研究していきます。デザインプロセスをどのような視点で省察するべきか?という問いに対しては、これまでに行ってきた過去のデザイン実践を題材に、初学者にとって有効なデザイン実践研究のかたちを模索します。デザイン実践と並行して必要な記録をとる方法はないか?という問いには、新たに取り組むデザイン実践を題材に、初学者のデザイン実践研究に必要な記録から省察までの一連の方法を実践的に探っていきます。
デザインプロセスの記録・視覚化・省察の内容と、それらを実践してわかった考察を、デザイン初学者である私の一人称視点で記述します。一人称視点で記述する目的は、実践した本人にしかわからないこと、語れないことを記述するためです。
ここからは、研究の経過報告をさせていただきます。
まず、自分のデザインプロセスを省察する視点を探るため、他のデザイナーのデザイン論との比較を試みました。今回は、ブルーノ・ムナーリの著書『モノからモノが生まれる』から、「企画設計の図式」を参考に考察しました。
ムナーリの示す「企画設計の図式」と比較することで、自分のデザインプロセスは、作業的にこなしており、意志が明確でないこと。目の前の作業しか考えられておらず、全体が見えていないことに気づきました。
ムナーリの「企画設計の図式」は、作業の手順を示すのではなく、ムナーリの考えに基づいてデザインプロセスを書き出すとこうなるという書き方がされており、ムナーリ自身も完全な図式ではないと言っています。
他のデザイナーのデザイン論と自分のデザインプロセスを比較してみたことで、デザインプロセスの記録が残っていたことで、他者のデザイン論と比較することができたため、デザインプロセスの記録を残すことは、有効であること。ムナーリの記述は自分のデザインプロセスを省察するのに役立ったことから、自分の実践に関する記述も、次のデザインや他者のデザインにも役立つ可能性があるという考察が得られました。
デザイン実践と並行して必要な記録をとる方法を模索するための題材としては、情報ライブラリー(大学図書館)の利用促進を目的とした、情報共有WEBサイトのデザインに取り組んでいます。このプロジェクトは、図書館スタッフ1名と私の2名で行っています。この実践では、図書館から利用者への情報発信だけでなく、利用者同士の情報共有の場も必要であると考え、実現に向けて制作しています。
このデザイン実践に並行してデザインプロセスの記録を行うためのツールとして、デザインプロセス記録用のブログサイトを制作しました。日々の活動内容をブログの記事として投稿し、デザインレビューや対話の内容をコメントとして残せるようにしています。
このような記録方法を撮ることで、
という効果がありました。
今後の方針としては、ムナーリ以外のデザイナーのデザイン論とも比較することでデザイン初学者にとって有用な実践の記述方法を見つけること。デザイン実践と並行して、デザインプロセスの記録方法を模索するために、記録ツールのバージョンアップと記録内容のフォーマット化を検討していく予定です。
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製品開発などの「デザイン実践」とは趣の異なる「デザイン実践」ですよね。もうちょっと端的に指し示すようないい言葉はないかなあ。(安井先生)
初学者=デザインを学ぶ大学生としたのは一人称研究として自分を対象としているからでしょうか?(福田さん)
デザイン実践と言ってしまうと,プロでのフィールドと混ざってしまい初学者としては別の言葉がいいですね.(田中さん)
両角研究室では卒業研究をすすめるとき、週の実績と次週の予定を書かせています。そのレベルの情報の粒度ではだめなのでしょうか。その一方で調査アンケートやCジャーニーマップやモデルなどが制作され、残されますので、それ以外に残すべきものはどのようなものでしょうか。(両角さん)
今、学んでいることを省察することが、卒業して実務者になってから、大学での学びの価値に気付くことは大いにあります。学生当時にどのように省察したかを思い起こすことに活用したら良さそう。(堀江さん)
田中先生←同意です。「デザイン初学者」の定義とは?院生って初学者?とも(中島さん)
「野良デザイン実践」「野生的デザイン実践」とか。(安井先生)
両角先生←学生に週報書いてもらう、って素晴らしいです!デザイン系学生は絵を描いとけばいい、というゼミもあるので。上野とか上野とか。 両角先生←「粒度」という表現、素敵です(中島さん)
ムナーリと比較したのはいいと思う(ムナーリ自身も実践者だし)。人それぞれに自分にあった記録の残し方があると思う。西山さんにとってよかった残し方は?(横溝さん)
デザインに出会ったきっかけは?デザインの記録が必要と思ったきっかけは?どんなところに困っていたの?など、個人的な動機の部分を説明できると共感しやすいかも。(福田さん)
記録には「目的」と「粒度」が大事(両角さん)。
必ず、情報には階層がある。丁寧に整理していけば構造化できる。(中島さん)
ブログだとテキストベースで、ビジュアル的な表現がなくなってしまう気がする。